赤鬼青鬼 12

真実

 さて、今からここには私の妄想を書く。以下に述べることは全て虚実であり、実際の出来事とは一切、関係ない。一切だ。私は現実がこうであって欲しいと願う。

 まずアキちゃん。
 志藤秋穂は村上唯子に憧れていた。入学式に金髪で表れた村上唯子に、秋穂は一瞬で心を奪われた。なんと気高く、なんと美しいんだ! 秋穂は唯子に、自分のやりたくても我慢してきたことを全てやっていた。貧乏な家に生まれ、追い立てられるように勉強ばかりさせられてきた秋穂も、本当はおしゃれをしてみんなにもてはやされたかったのだ。秋穂は自分の理想である唯子に近づきたかった。だけど秋穂は唯子に嫌悪されていることに気づいてしまった。嫌われている自分には唯子をどうこうすることはできない。近づくことが出来ない。まともに話をすることも出来ない。じゃあどうするか。志藤秋穂は修学旅行の夜、松島鞘と村上唯子が部屋を出たのを確認し、これに忍び込み、唯子のベッドでオナニーした。それが秋穂に出来る最大限の接近だった。秋穂は唯子のことを思いながら自慰にふけっていると、そこへ見回りの教師、木田篤彦がやってきてその現場を目撃され、秋穂は木田に犯される。そのときに用いたコンドームが村上唯子と松島鞘の部屋に残り、それが後に問題となった。

 次に唯子ちゃん。
 村上唯子は志藤秋穂を嫌悪していた。それは志藤秋穂が過去の自分の姿と重なるからだった。唯子の中学校時代は地味であか抜けない少女だった。勉強もスポーツもそこそこに出来て、友達もそこそこに多かった。生徒会長もやった。だがそれだけだ。それらのすべてはやりたくてやってきたわけじゃない。すべて、やらされただけなのだ。勉強も、生徒会長も、本当はそんなことしたくはなかった。高校に入学すると同時に、彼女は自分の殻を破った。自分のやりたいことをやるのが正しいことだと信じた。彼女は自分の正義を実行した。どんな派手な格好をしていたって、学力とは関係ないということを大人達に証明しようとしたのだ。そこで彼女は運命的な出会いを果たす。それが松島鞘だった。鞘は、彼女の理想とする『松島カンナ』の妹だった。あの松島カンナの妹と話せるなんて! 最初は鞘の持つ、『松島カンナの妹』というブランド性のために鞘に接近するが、次第に鞘の明るさと繊細さに惹かれるようになった。気がついたときには唯子は、鞘を好きになっていたのだ。

 次に旭川さん。
 旭川登、本名西田朝久。朝久は父子家庭に育ち、父は毎日酒浸りで朝久に対しても暴力的だった。しかし中学校を卒業する前に父が他界し、朝久は卒業後にフリーターとして職を転々とするようになる。ホストクラブに勤め始めた時、その話術を買われ、同業の友人から詐欺師の世界に導かれた。現在は主に学生をターゲットに、少額の詐欺を無数に働いている。

 最後に片原修次君。
 片原修次は西田朝久に計五万円を騙し取られた。彼は激怒し、野球部の仲間、及び無職の友人達を使い、西田朝久を探し出す。そしてある夜、西田朝久が白川公園付近を通りかかったとき、待ち伏せていた片原修次ら計十名の少年で、これを公園に引きずり込み、バットや鉄パイプなどの凶器を用いて殺害した。当時周囲に人気はなく、目撃者はなかった。片原修次を含む十名は未だ逮捕されていない。

 私の妄想はここまで。
 …………。
 次からは現実に戻る。それが現実だ。